


先代の住職から受け継がれた
クラウンの物語
静岡県磐田市にある曹洞宗福王寺は、
建立から1000年を超える歴史を持つ由緒ある寺。
住職である田中孝教さんは、製造から約半世紀以上が経過した車を修復しながら、今も大切に乗り続けている。
田中さんの愛車は1967年式の「クラウンDX
トヨペットS4型」。
特徴的な丸型のヘッドライトや側面の三角窓、ホワイトウォールタイヤ(タイヤ側面の白い輪)など、クラシックなディテールが目を引く。
約50年大切に乗り続けているクラウンの魅力と愛車への思いを田中さんに聞いた。



約半世紀もの間、
乗り続けているクラウン
新車と比べると燃費や機能面では劣るのは事実だが、
田中さんいわく「このクラウンにしかない魅力がある」のだという。
「私は、クラウンの他に電気自動車にも乗ったりするのですが、
それに比べるとクラウンはきちんとエンジンの音や、ガソリンの匂いがする。
アクセルを踏み込んだ時にそれに合わせてエンジンの機械音がして、
ゆっくりと加速していく。自分で運転しているという感覚が強いんです。
それが今の車にない、クラウンの魅力だと思います」
田中さんと
クラウンとの出会いは?
元々このクラウンは、東京都の曹洞宗本部で公用車として4年間使われていたが、本部勤務だった先代の住職が気に入り買い取ったという。
福王寺に弟子入りした田中さんは、車庫のクラウンを見て「このお寺にピッタリのクルマだ!こんないいクルマはない!」と一目惚れ。
そこから、自動車免許を取得して、クラウンで先代の住職の送り迎えをしていた。
当時クラウンといえば高級車で、『いつかはクラウン』というキャッチコピーが流行った時代。
「初めて乗った車でなおかつ高級車ですし、大切に乗らなくてはなと思っていました。
その思いは今も変わっていないですし、先代住職の形見だと思って乗っています」と田中さん。
クラウンが繋ぐ人との
出会いや思い出
約50年も一緒の車に乗っていると、思い出は尽きない。
田中さんが弟子入りしてから先代の住職を送り迎えしたり、
家族でいろいろな場所に出掛けたりなど、
田中さんの人生の大半をともにしている。
田中さんが最近、ホームセンターで買い物していたときだ。


駐車していたら、隣の車の方から「純正のホイールキャップを持っているから
あげますよ」と話しかけられた。
「その方は“物を大事にする”人でクラウンの純正ホイールキャップを
5枚も持っていて、それを譲ってくれたんです。
でも、タダでもらうのは悪いからお金を払いますと言ったのですが、
『こんな素敵なクラウンを見れただけで感激だからホイールキャップはあげます』
と言われまして。
こんな出会いがあるなんて本当に嬉しかったです」
以心伝心で伝わっていく思い
田中さんの“物を大事にする”という感覚はクルマだけではない。
福王寺の本堂でも同じだという。
本堂は建立からすでに300年経過しているが、「代々の住職から受け継いできたものですので、私の代で新築にしようという考えはありません。
悪いところが出れば、そこを取り替えて、できるだけ長く今の形を維持していきたいですね。クルマも同じです」
「できることなら、このクラウンをこれからも乗り継いでいってもらいたいですね。
こういった"物を大事にする”という姿勢は、副住職である息子にも伝わっていると思います。
そうやって以心伝心で伝えていくのが、お坊さんの役目じゃないかなと」
次々に新しいものが生まれ、消費されていく昨今、田中さんのように“物を大事にする”という姿勢こそが、
再度私たちが見直すべき価値観なのでないか。
クラウンDX 1967年式の旅
大好きな車と訪れたい場所
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福王寺
真言宗高野山の末派として建立され、平安時代の陰陽師 安倍晴明が祈祷をして暴風を鎮めたことから、山号を風祭山と称します。
お花見スポットとしても有名で、春の桜のあとは、推定樹齢300年の長藤、推定樹齢80年のあけぼの藤が見ごろを迎える。
東名高速磐田ICより、約15分。 -
天竜川
長野駅から愛知県を経由し、静岡県磐田に流れる天竜川。
気持ちの良い景色が続き、ドライブにもぴったり。
河川敷で水遊びができる公園や、オートキャンプ場など、遊べるスポットが多く、ファミリーにも人気。 -
御厨(みくりや) 田んぼ道
2020年に開業した御厨駅。
松林山、高根山、御厨堂山、稲荷山、秋葉山の5基の古墳があり、1番大きい松林山古墳は、全長107メートルの前方後円墳。
夜は、田んぼ道から満天の星空が望める。