父との思い出の
“ボルボ”と共に生きる
作家の岸田奈美さんが乗るのは、ボルボ240エステート。
奈美さんと同年代のクルマで、四角いレトロなデザインが特徴的な一台だ。
「このボルボに乗るために免許を取ったんで。まさか30歳になって免許取ると思わなかった」と、
この車を手に入れたときのことを語る奈美さん。
彼女がこのボルボに乗るようになったのは、15年前に急逝した父の影響がある。
父が乗っていたボルボへの思い
「元々お父さんがボルボ940っていうクルマに乗っていて、
その車がめちゃくちゃ家族の思い出のクルマなんです」と奈美さん。
家族でボルボに乗って様々な場所に行ったが、
関西から千葉のディズニーランドに行った思い出は忘れられないという。
「ダウン症の弟は、新幹線や飛行機を怖がってしまうので、遠出は無理だなと思っていたんです。あるときにお父さんが『遠出が無理なことあるかい!このクルマでディズニーランド行くぞ』って急に言い出して」
ボルボ940は、後ろの座席を倒したらフラットになる。
「そこに布団を持ち込んで寝れるようにして、お父さんは夜通し運転して私と弟は寝てました(笑)」
「その時がクルマに乗っていて一番楽しい瞬間だった」と奈美さんは続ける。
「後ろの席で寝っ転がって天井を見たりして、お父さんが助手席のお母さんと話している会話を聞いていました。
夜2人で何を喋ってるか全く覚えてないんですけど、その光景は今もはっきりと思い出せます」
奈美さんと
ボルボ240エステートとの
出会いは?
奈美さんはそういった家族の思い出をエッセイにまとめた。
それが話題となりNHKでドラマ化。
そのドラマの撮影で使われていたのが、この赤いボルボ240エステートだ。
ドラマの中では、“ボルちゃん”という愛称で、家族の思い出を刻む車として出てきている。
「お父さんが亡くなったとき、私たちはボルボを手放しました。
外車を車検に出して維持するお金よりも、生活のために使うお金の方を優先しました。
お母さんがその時にどれだけ辛い思いをして、ボルボを売ったのかは分かるので文句は言えなかったですね。
撮影現場で赤色のボルボ240を見たときに、お父さんとの思い出が頭に浮かんできて懐かしくて思わず涙が出ました」
そして、撮影で使用されたクルマをオーナーさんが譲ってくれるという話が舞い込んだ。
奈美さんは、まさかの展開に驚きつつも再びボルボに乗ることになった。
古いクルマを
大事に乗ることの魅力とは?
奈美さんが乗るボルボ240には、今のクルマにはない魅力があるという。
「新しいクルマって道をスムーズに滑って走っていく感じなんですよ。このボルボ240は、タイヤで地面をギュギュッって掴みながら走ってる感じがして、運転してて面白いんです」
また、クルマというよりかは“人”のように感じることがあるという。
「この“ボルちゃん”はもうめっちゃ壊れるんですよ(笑)。
ほんまに3ヶ月に1回ぐらいエンジン止まるとか、ブレーキパッドが減るとか…。
だから、クルマに乗る前は撫でてあげて
『今日頑張ってくれよ〜』って声をかけて、
運転が終わった後は『よく頑張ってくれたね!』って言いながら
拭いたりケアしています」
ボルボに乗ることで父の記憶を追体験している
奈美さんは、ボルボ240に乗ることで父の記憶を追体験しているとも語る。
「自分のボルボが壊れるたびに、お父さんもクルマ屋さんに持って行っていたなとか、その待ち時間にジュースを買ってくれたこととか、
そんなささやかな思い出が鮮やかに蘇ってきます」
「今このボルボと走っていると、あの時お父さんもこんな気持ちだったのかもしれないな、とふと感じる瞬間があるんです。
『お父さんは今の私と同じ苦労してたんとちゃうんかな?』とか思ったりして。
それを知りたくて、そして忘れずにいたくて、このクルマと共に生きている気がします」
~Extra Story~
ボルボ240エステートの素敵なストーリーを併せてご覧いただけます。
「ボルちゃんが家にやってきた!」(岸田奈美さんのブログ)ドラマ化の題材となった岸田奈美さんの書籍
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』Profile
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岸田奈美(作家)
1991年生まれ、兵庫県神戸市出身。
関西学院大学人間福祉学部社会起業学科在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部⾧を務めたのち、作家として独立。
Forbes 「30 UNDER 30 Asia 2021」選出やテレビ出演など活躍の場を広げている。
著書に『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)、『もうあかんわ日記』(ライツ社)、『飽きっぽいから、愛っぽい』(講談社)など。
最新刊に『国道沿いで、だいじょうぶ100回』(小学館)。 -
岸田ひろ実
(カウンセラー / 作家)1968年大阪市生まれ。
ダウン症で知的障害のある⾧男の誕生、39 歳だった夫の急逝、さらに自身が大動脈解離で受けた手術の後遺症によって車椅子生活 になる。リハビリ中から心理学を学び始める。
2011 年、娘・奈美が創業メン バーである株式会社ミライロに入社し、同社主催講演などの講師を務めていた2020 年、感染性心内膜炎で再度の心臓手術を受ける。現在は退社し、カウ ンセラーの他講演やコンサルティングなどフリーランスで活動中。
著書に『人生、山あり谷あり家族あり』(新潮社)、『ママ、死にたいなら死んでもいいよ』 (致知出版)。 -
岸田良太(文字職人)
1995年生まれ。
生後すぐにダウン症の診断をうける。姉で作家・岸田奈美の エッセイ『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』がネットで 100 万人以上に読まれたことで一躍有名に。
ひとつひとつ丁寧に綴られる独特であ たたかみのある文字が評価され、現在は福祉作業所で働くかたわら、文字職人 として、株式会社ほぼ日からオリジナル手帳を発売するなど活躍の場を広げている。
“愛”のある“クルマ”のお手入れを。
愛あるクルマはいつまでも美しく、そしてかっこよくいてほしいですね。
輝かしいカーライフを送るみなさまへ、愛車を長く大切に輝かせるためのお手入れのワンポイントアドバイスを紹介します。
今回の岸田奈美さんのボルボ240エステートは、現代にはない角ばったボディで人気のネオクラシックカーです。
赤色のボディカラーが非常に印象的ですが、褪色しやすいカラーでもありますので、カラー顔料を含む“赤”専用のクリーナーワックスをご使用いただくことで鮮やかなボディが蘇ります。
またボルボ240エステートには未塗装樹脂パーツが多用されており、旧車ならではの白化現象がクルマ全体に古びた印象を与えてしまいがちです。未塗装樹脂パーツは専用のコーティング剤でメンテナンスすることで未塗装樹脂本来の“黒”が復活し、クルマ全体を一層引き締まった印象を与えることにもなりますので、是非定期的なお手入れをおすすめします。
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